<特別講演 講師紹介>
■ 李國彦(イクゴン) さん
1968年生まれ。光州市居住。
前<ohmynews><市民の声>記者。<日帝被害者新聞>編集長。
2008年に記者を辞した後、2009年3月、「勤労挺身隊ハルモニ と共にする市民の会」創立。
事務局長を経て、2014年3月から常任代表として活動。
著書『奪われた青春 帰らぬ冤魂 』市民の声(2007)。
ドキュメンタリー「14歳 名古屋へ連行された少女たち」構成に参加
■ 勤労挺身隊ハルモニと共にする市民の会
(http://cafe.daum.net/1945-815)
2008年11月、日本の最高裁判所で三菱女子勤労挺身隊訴訟が最終敗訴した後、2009年3月に光州で創立。会員約800余名。
韓国社会で未だよく知られていなかった女子勤労挺身隊問題を知らせることに努力して来ており、そのほか日帝強制動員問題、青少年歴史教育、韓・日市民団体の交流及び連帯活動にも関心を持って活動している。
2012年、「日帝強占期女子勤労挺身隊被害者支援条例」を光州で初めて制定して以降、全羅南道・ソウル市・京畿道・仁川市・全羅北道など、現在まで6カ所に関連条例を制定することに助産師の役割をする。
2012年10月、原告5名が三菱重工業を相手に1次損害賠償訴訟を提起したことを始まりとして、3次にわたり原告11名が三菱を相手として関連訴訟を進行中であり、現在1件は韓国大法院 、2件は去る8月の1審勝訴後、光州高等裁判所に係留中。
軍艦島など、日帝強制動員現場についてのユネスコ産業遺産登録問題が争点になった2015年6月には、歴史紀行団を率いて長崎地域踏査に出向いたが、関係当局の妨害で軍艦島上陸ができなかった。2015年7月には、総会が開かれたドイツのボンに派遣団を送り、ユネスコ登録の問題点を指摘しつつ阻止活動に立ったことがある。
2010年から日本の支援団体と連携し、学校の休み期間を利用して日本(名古屋、富山)の歴史現場を見て回る「韓日青少年平和交流」(対象:高校生)を毎年開催している。


<「市民の会」の糾弾声明(日本語訳)>
∥ 日帝強制徴用施設ユネスコ世界遺産登載を糾弾する声明
歴史の貧困が呼んだ朴槿恵政権の外交的野合であり恥である!


7月 5日は大韓民国が征韓論の理論的背景になった吉田松陰の私設塾である「松下村塾」と、そこから始まった植民地侵略戦争の暗い歴史施設等を満場一致で世界遺産になれるよう、国際舞台が承認した恥辱的な日になってしまった。同時に韓国政府は安倍政権の一連の歴史修正主義の試みを完成させて上げる、主役になり下がってしまった。
5日、日本が朝鮮人強制徴用施設を含み登載申請をした明治時代の産業遺産23ヶ所が皆、世界遺産に登載されてしまった。これと関してわが韓国政府は、日本政府から「強制労役」の事実を国際舞台で初めて言及させたと、外交的勝利とおおげさにふるまっている。
もちろん、日帝が侵略時期に行った強制徴用の問題が、韓日両者間の次元を越して国際舞台で公式的に言及され、文書に残ることになったのは少なくない意味がある。しかし文面をよく見ると、これが果して外交的勝利と自画自賛するだけのこと疑わしい限りである。
過去の出来事だが、日本政府が登載を申請した施設の一部は、世界遺産になる資格さえ持つのが難しいものだったし、逆に登載を推進しようとかる発想が何なのか、より疑わしいものであった。
代表的なのは松下村塾である。 吉田松陰とは、果して誰なのか? 彼は征韓論と大東亜共栄論等を主唱して、朝鮮の植民地化を含む日本の帝国主義政策理論を提供した人物で、結果的にそれ以後の歴史は、アジア国々に洗い拭えない苦痛を与えたアジア太平洋戦争につながってしまった。
人類の共栄に寄与したのではなく、人類の平和を害するのに寄与した一個人の私設塾を世界遺産に登載できるよう許容したことは、結局過去の過ちに兔罪符を与えたのと同じで、日本政府が第2の軍国主義の亡霊を夢見られるように、国際社会が勇気をけしかけるざまと何が違うのか。それなのにわが韓国政府は、このような問題に対して全く認識すらなかった。
色々な強制徴用施設の中でも特に軍艦島(端島)の場合、島の生成及び展開の過程自体が帝国主義戦争と植民地民衆の強制労動を除いては、説明不可能な所である。こんな点から他の強制動員施設などを含み、過去の過ちに対する真なる謝罪と反省を前提にしない限り、到底世界遺産には許容できない場所であった。

 

ドイツの例と比べても、ハッキリしている。2001年世界遺産に登録されたドイツ・エッセンのチォルペオ・ライン炭鉱産業団地の場合にも過去に強制労動があったが、ドイツはただ一番もこのような事実を隠そうとした事がなかったのみならず、二度とこのような事がくり返されないように、逆に恥ずかしい事実を積極的に公開して追悼施設を建立するなど、自己反省を通じて世界遺産に認められることができた。
しかし今回の場合は、全く違う。日本が「強制労役があった」事実に言及したが、これは終盤の登載通過のために仕方なく、「強制労役があった」というただ歴史的事実のみを是認したもので、真なる謝罪や自己反省とは距離が遠いからだ。にもかかわらずわが政府は日帝の強制徴用施設を、あまりに簡単に世界遺産を許容して上げたのである。
日本政府が「強制労役」に言及したからと、大きな外交成果のように自慢しているが、これもまた内容を見ると偽りでしかない。
まず、「強制労役」という表現が決定書の本文や注釈に含まれたのではなく、日本側代表の発言録から探せるという点は残念なことである。全体的意味からは強制動員を認めたと評価できるかも知れないが、学者や文献専攻者でなければ後日、誰が果してこのような事実をきちんと知ることができるか疑問である。
特に内容面から今後、いくらでも韓日間で互いに違う解釈を生む火種を残した点から、ともすれば「敗着」となる恐れが大きい。

 

日本側の首席代表は発言で、「日本は1940年代に一部の施設で数多くの韓国人とその他の国民を、本人の意思に反して動員し、苛酷な条件の下強制労役したこと」を認めながらも、「強制労役」させた主体が誰なのか、明確にしないことに注目する必要がある。
特に続く発言で「第2次世界大戦当時、日本政府も徴用政策を施行したという事実を理解できるようにする」という表現は、終盤の妥結前まで日本政府が一貫して「強制徴用」を否認して来たことに照らしてみた時、解釈上紛争の種になる可能性があることを想起する必要がある。
知られているように日本政府は、「当時は、日本と朝鮮がひとつの国だったから、例え徴用があっても強制徴用ではなかった。日本国民もまったく同じ条件で徴用があった」と言う点を、主張し続けた。
こんな延長線から日本側の首席代表が韓国人の強制労役の事実を是認したのに止まらず、同時に当時日本政府が施行した徴用政策を理解できるようにすると言ったことは、前で強制労役をさせた主体が抜け落ちている点と連動してみた時、「強制労役はあったが、これは日本国の内次元(朝鮮も当時は、合法的併合によるひとつの国)で施行された措置の一環」と言い抜けするための布石が敷かれている可能性を排除できない。
外見とは違い、政府当局者もまた賠償根拠の関連性に対しては線を引いている。政府当局者はあるインタビューで、「強制労役について日本が歴史的事実を認めたのであって、法的な問題を認めたのではない」として、「賠償問題は (今度の決定文とは)別個と見ている」と、「強制労役」の記述がただ歴史的事実の反映に終えたことを強調している。

 

日本政府は合意文のインクが乾く前に、別のことを言い出した。岸田文雄日本外相が 5日発表文に言及された「強制労役」を否認し、早くから「働くようになった」という言葉で乗り切ろうと試みたことが、その前兆である。
結果的にわが政府は決定書の本文や、注釈からも捜し出せない、後日韓日間で解釈上の火種になりそうな「‘強制労役」の文言一つを得る代わりに、日本帝国主義に兔罪符を与え、日帝の強制徴用施設が世界的観光地に浮上するように、その施設物の付加価置だけ高めて上げるざまを受け持ってしまった。
このような結果は、交渉の初期から予想されたものだった。それは結論的に、日帝の韓半島不法強制占領とそれによる法的責任と賠償問題は眼中にないか、他人の事のように考える歴史認識の貧困と不在から始まったのである。

 

知られているように勤労挺身隊被害者のハルモニたちが、三菱を相手に損害賠償訴訟を起こした事件と関連して、1審に続き去る6月24日光州高等法院で賠償判決を得たが、わが政府はこれに対してよろこぶ気配すら捜せない。日本軍慰安婦問題、原爆被害者、サハリン被害者問題以外のすべての問題は解決したし、したがって日本政府の法的責任がないという立場のせいである。違う言い方をすれば、政府の立場からは無茶苦茶な判決なのである。

 

以上のすべてが一貫した歴史認識から出発した結果、松下村塾問題は最初から取上げるつもりもなかったし、日帝強制動員問題もまた謝罪と法的賠償問題は、はじめから排除したまま、極めて制限された範囲の中だけで交渉に臨んだのである。その結果、わが政府は「強制労役」という文言一つを得る代わりに、結果的に安倍が自分のすべてをかけて推進して来た、一連の歴史修正主義のシナリオを完成させて上げる主役になってしまったのである。
日帝徴用施設の世界遺産登載結果は、ひとことで言って歴史貧困が呼んだ朴槿恵政権の外交的野合であり屈辱である。同時にこのような認識に基かない限り、この政権で対日過去清算と日帝被害者問題の解決は、これ以上期待できないことを確認する。

 

2015年 7月 6日
                   勤労挺身隊ハルモニと共にする市民の会